no.11「暗黒女子」(2017)

超名門お嬢様学校の文学サークル、そこはアンティーク家具の揃う美しい部室。

女生徒の謎めいた転落死、雷が鳴り響く嵐の夜に密室で闇鍋…。登場人物には、太陽のようなカリスマ、才能あふれる若き作家、お菓子作りが得意な有名料亭の娘、ブルガリア人と日本人のハーフ、貧しいながらも特待生で入学した努力家、そして太陽に対して月のようだと称されるもう一人のカリスマと、バリエーション豊かな面々が揃う。

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  ©2017「暗黒女子」製作委員会 ©秋吉理香子/双葉社

一見ベタな設定だが、現実にはありえない、もしくは日常からは遠く離れた場所に本当はあるかもしれない乙女たちのサンクチュアリ。

観客を翻弄させる登場人物たちの意見の食い違いはミステリの古典的な手法ではあるし、W主演の清水富美加と飯豊まりえによる何らかのどんでん返しがあるだろう、という予想はつく。しかしその結末に至るまでのプロセスのなかには、女生徒たちによる裏切り、妬み、そして学園という自由そうでなかなか閉鎖的な空間が再現されており、観る者を楽しませる。

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  ©2017「暗黒女子」製作委員会 ©秋吉理香子/双葉社

白石いつみによって集められた4人の女生徒たちはそれぞれに黒い秘密を抱えた悪女であり、彼女ら自作の物語はそれなりにインパクトがあるものの、ど こか未完成な印象を受ける。しかしそれこそが白石つくみがいかにカリスマであり誰の手も届かぬ域に君臨していたかということを見事に引き立てるのだ。

そうして、もう1人のカリスマ的存在であった清水富美加演じる澄川小百合がいよいよ衝撃的で美しいクライマックスを語り始める。

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 ©2017「暗黒女子」製作委員会 ©秋吉理香子/双葉社

女生徒たちの屈託のない笑顔の裏に隠れるヒエラルキー。実際に巻き込まれるのは御免こうむりたいが、野次馬的に彼女らの実態をのぞきみる心地よいやましさと胡乱な妄想欲を満たしてくれる本作は一見の価値あり。

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 ©2017「暗黒女子」製作委員会 ©秋吉理香子/双葉社

 

◼︎暗黒女子

出演:清水富美加 飯豊まりえ 清野菜名 玉城ティナ 小島梨里杏/平祐奈/升毅 千葉雄大
原作:秋吉理香子『暗黒女子』(双葉文庫)
監督:耶雲哉治 脚本:岡田麿里 
音楽:山下宏明
主題歌:Charisma.com「#hashdark」(ワーナーミュージック・ジャパン)
制作プロダクション:ROBOT 
配給:東映/ショウゲート 

©2017「暗黒女子」製作委員会 ©秋吉理香子/双葉社

公開日:2017年4月1日(土)全国公開

ankoku-movie.jp



■作品紹介
あなたの予測をすべてブチ壊す 驚愕のラスト24分! 学園一の美少女を殺したのは誰?
イヤミスの傑作!「全員悪女×ダマし合い」裏切り!エンターテインメント

学園のカリスマ“白石いつみ”の謎の死——「この中の誰かが彼女を殺した。」
セレブ女子高生たちが通う、聖母マリア女子高等学院。ある日、学院の経営者の娘で、全校生徒の憧れの的だった〈白石いつみ〉が謎の死を遂げる。校舎の屋上から落下したのだが、自殺か他殺か、事故なのかもわからない。やがて、いつみが主宰していた文学サークルの誰かが彼女を殺したという噂が立つ。
いつみの親友だった澄川小百合がサークルの会長を引き継ぎ、部員が自作の物語を朗読する定例会を開催する。今回のテーマは、「いつみの死」。それぞれを“犯人”と告発する作品が発表されていく。
物語は5つ、動機と結末も5つ──果たして真実はあるのか?

イヤミス界の新時代を切りひらく、“裏切り”エンターテインメント!
読んでイヤな気持ちになる最悪の結末だが、後味が悪ければ悪いほど“クセ”になってしまう魅惑のミステリー——<イヤミス>。今や一大人気ジャンルとなったイヤミス界に新たな旋風を起こし、発売直後から「この結末には完全にヤラレた」と中毒者が続出した、秋吉理香子の小説「暗黒女子」が、ついに映画化。
物語が進むにつれて、事件の真相だけでなく、登場人物全員の<黒い秘密>も暴かれていく。美しすぎる女子たちの抱えた<まぶしい暗黒>が解き放たれる時、衝撃と陶酔が一つになる密室ミステリー。5つの告発の果て、史上最悪のラストには、あなたも完膚なきまでにダマされる——!

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Sunday Pickup

あっという間に4月も2週目。
今週おすすめの旧作は「エリザベスタウン」(2005年:キャメロン・クロウ)、「トム・アット・ザ・ファーム」(2013年:グザヴィエ・ドラン)、「17歳」(2013年:フランソワ・オゾン)。

 

■エリザベスタウン(原題:Elizabethtown)

シューズ会社に勤める主人公ドリュー(オーランド・ブルーム)は自らがデザインしたシューズが大失敗し、約10億ドルの損害を出し解雇に。若き天才と呼ばれ美人な彼女もいて順風満帆にみえたのに、一寸先は闇…。自作の殺人ランニングマシンで自殺をはかろうとするも、生まれ故郷に帰っていた父親の急な訃報を知らされ、ケンタッキー州のエリザベスタウンに向かう(タイトル回収)。そしてその機中で個性的で世話焼きなCAのクレア(キルスティン・ダンスト)に出会う。

疎遠だった親戚との再会や父親の友人たちと触れ合う描写がとても優しく、ひと癖ある登場人物もどこか憎めない。ラストでクレアの用意してくれたオリジナルマップに沿って走る父親との最後のドライブシーンがジンとくる。キャメロン・クロウ監督らしい音楽のセンスも◎

 

 

 

■トム・アット・ザ・ファーム(原題:TOM A LA FERME/TOM AT THE FARM )

グザヴィエ・ドラン作品の中で圧倒的におすすめしたい1本。

恋人のギョームが死に、葬儀に参列するために彼の田舎に訪れた主人公トム(グザヴィエ・ドラン)はギョームの兄で暴力的なフランシス(ピエール=イヴ・カルディナル)と奇妙な関係になり、ともに過ごすうち徐々に変化していく心理を描いたサスペンス。

青みがかった映像に刃のように鋭いトウモロコシの葉、動物の死骸にフランシスとの狂気のダンス。監督、脚本、衣装、編集もドラン自身が手掛けた。

 

■17歳(原題:Jeune et Jolie)

 夏に物語がスタートするところが何ともフランソワ・オゾン監督らしい…。

夏、17歳のイザベル(マリーヌ・ヴァクト)は性にめざめ、初体験をすませる。季節はめぐり、秋。彼女は売春に手を出す。懇意にしていた客のうちの一人が行為の最中に死んでしまう。冬、家族に売春がばれたイザベル。このまま普通の女の子に戻ってしまうのかと思わせつつも、春になり彼女はまた売春をする。幻想と現実の狭間を描くのが特徴のオゾン監督。夢のような感覚の中でイザベルが売春をする動機を探るのは野暮だろう。悪魔のように美しく、それがときに凶暴にもみえる思春期特有の輝きが眩しい。

 

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新作紹介:「無限の住人」

1993年から2012年まで「月刊アフタヌーン」で連載された沙村広明による「無限の住人」は累計発行部数750万部を超える人気時代劇漫画だ。本作はアメリカで最も権威があると言われるコミック賞のひとつ、ウィル・アイズナー漫画業界賞の最優秀国際作品賞を受賞している(その後、手塚治「ブッダ」、大友克洋「AKIRA」が同賞を獲得している)。

ユニークな世界観、圧倒的な活劇描写、敵も味方も魅力に溢れたキャラクターが織りなす人間模様。全30巻にも及ぶこの大作の実写化にメガホンを取るのは「クローズZERO」(07)シリーズや「悪の教典」(12)、「土竜の唄」(14/16)などで知られる三池崇史監督だ。主人公である無限の命を持つ用心棒、万次を演じるのは”あの”木村拓哉。両親の仇討ちを誓い用心棒として万次を雇う少女凜には昨年「湯を沸かすほどの熱い愛」(16)で数々の映画賞を受賞しいま最も注目を集める若手女優、杉咲花だ。そして凜の両親を殺した逸刀流(いっとうりゅう)統主、天津影久には初の悪役を演じるという福士蒼汰。その他にも多彩なキャラクターを戸田恵梨香、北村一輝、市川海老蔵、栗山千秋、満島真之介など錚々たる顔ぶれが演じる。

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 (c)沙村広明/講談社 (c)2017映画「無限の住人」製作委員会

 

原作のビジュアルからは一見想像し辛い木村拓哉の起用に驚いた人も多いのではないだろうか。そのアイデアを提示したのは他でもない三池監督だという。その発案に対しエグゼクティブプロデューサーの小岩井氏は「死なない侍」という存在と数十年もの間第一線で活躍し続ける木村の存在が重なったと話す。

本作のみどころは約300人ものエキストラを投入し、2週間以上かけて撮影されたという宿場町でのクライマックスのシーンだ。300人の幕府軍相手に敵役である天津と万次の戦いが同時進行で描かれており、対象的な二人を交互に映し出すことで一騎打ちへの期待を高まらせる。

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 (c)沙村広明/講談社 (c)2017映画「無限の住人」製作委員会

しかし何と言っても本作は万次を演じた木村の功績によるものが大きい。木村といえば山田洋次監督の「武士の一分」(06)で侍役を好演したが、本作ではそれと全くちがった、猛々しくパワフルかつ繊細な表情をみせる不死身の用心棒という難しい役柄に挑んだ。 

万次は不老不死という身体をもちながらも、斬られれば痛みを感じるし、致命傷を追えば死ぬこともある。五十年という年月を老いることもなく生き続けてきたことによる気怠い雰囲気をもつ一方で、凜を守るためであれば腕を斬り落とされようとも戦い続けるなど情に熱い面も持ち合わる万次。その姿は木村拓哉その人自身の印象にも重なる。

木村がストイックな俳優だということはすでに広く知られたことかもしれないが、今回も彼は役作りに向けてストイックな姿勢で臨んだ。撮影では極寒の京都において素肌に着流し一枚と裸足に草履という出で立ちで常に挑むという徹底ぶり。また、原作の設定どおり右眼を完全に潰した状態でアクションをすることにこだわったのも木村だという。多種多様な戦い方で万次を襲ってくる敵に対して殺陣の数々はすべてノースタントで演じたという木村だが、彼は人物の動きを段取りのように表す「殺陣」や「立ち回り」という言葉を好まないという。見栄えを意識する殺陣はときに流麗さに傾くこともあるが、それに対し木村は監督やアクションチームと話し合い、より人間的に演じる工夫を加えたという。それによってもたらされる戦闘シーンの人間臭さ、あるいは野性味あふれる戦い方が万次というキャラクターをうまく体現している。

ヒロインを演じる凛役の杉咲花は少女でありながら両親を殺されたことにより天津への復讐を誓うという難しい役柄を見事に演じきった。彼女の言葉と表情はスクリーンの向こう側のキャラクターだけでなく観客の心までも動かすような説得力を持っていて、同世代の女優のなかでは群を抜いている。凛は万次を用心棒として雇いながらも時には自ら盾になって彼を守ろうとする。それはただ守られるだけのヒロインではない、道場の一人娘であり仇討ちのために人生を捧げることを決意した芯のあるヒロインということを印象付ける。三池監督の作品といえば血の気が多くて流血シーンも多いイメージだが、本作では作品の重要な要素でもある凛の心の揺れ動きに寄り添った繊細な演出で描いている。

 

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 (c)沙村広明/講談社 (c)2017映画「無限の住人」製作委員会

 

『無限の住人』
4月29日(土)全国ロードショー
出演:木村拓哉、杉咲花、福士蒼汰、市原隼人、戸田恵梨香、北村一輝、栗山千明、満島真之介、金子賢、山本陽子、市川海老蔵、田中泯、山崎努
原作:沙村広明「無限の住人」(講談社『アフタヌーン』所載)
監督:三池崇史
脚本:大石哲也
音楽:遠藤浩二
製作:映画「無限の住人」製作委員会
制作プロダクション:OLM
制作協力:楽映舎
配給:ワーナー・ブラザース映画
(c)沙村広明/講談社 (c)2017映画「無限の住人」製作委員会
公式サイト:http://mugen-movie.jp

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