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no.8 「エリザのために」(2017)

 今月5日のことだ。ルーマニアで政府に対する大規模なデモが行われ、およそ50万人が参加したとBBCが報道した。一部の政府高官を汚職摘発から守ることになる新法令に反発するものだという。このデモは1989年に起きたルーマニア革命でチャウシェスクによる共産党政権が倒れて以来の規模に拡大している。

 問題となっている新法令の内容は、汚職の金額が約530万円を超えない限り禁固刑に処されないというもので、汚職撲滅で既に摘発された高官らを免罪するためではないかと批判を受けている。法令はいったん撤回されたが、政府は修正法案を議会に提出する見通しで、強硬に議会を通過させるのではないかとの懸念が高まっている。
http://www.bbc.com/japanese/38877488

 1960年代から80年代にかけて24年間にわたり続いたチャウシェスクによる独裁政権以降のルーマニアの現在は、未だ階級社会や政治腐敗に混迷しているようだ。

 

 大学受験を目前に控えた娘が強姦に襲われる。心理的ダメージを受けた娘をどうにか受験に合格させようと父親は奔走する。その方法はあからさまにコネを利用したもので、お金が絡まないぶんまだマシといったところ。警察署長、副市長、試験監督などそれぞれが互いの利益と引き換えに頼りあい、支えあっている。

 あらすじだけを聞いて「モンスターペアレンツ(モンペ)」の話だと思ってはいけない。確かにロメオの行動はあるときから常軌を逸してしまうが、 スクリーン越しに伝わってくるのは、彼の「娘かわいさ」ゆえの感情だけではなく、ルーマニアという国の抱える社会の重苦しさだ。

 白昼堂々、強姦に襲われるような物騒な街。犯人は未だ逃走中だというのに娘だけが痛い目をみて、未来への希望も断たれようとしている。受験時には特別措置を受けたとなんの衒いもなく話すエリザの恋人の台詞が虚しい。

ルールがあるからといって遵守していたのでは損をする。ルールというものは守る努力が必要なのだから、皆がそれを放棄した状態では意味をなさない。

 いつのまにかエリザの真意はよそに、奔走するロメオ自身も袋小路に入ってしまう。バスに乗っていたロメオが突如降車し、真夜中の住宅地を走る。カメラは彼の後ろ姿を追い、遠くで不気味に物音が反響している。何度も後ろを振り返りながら走り、まるで見えない誰かから逃げているかのようなこのシーンは彼の心情と物語の展開を暗示しているかのようだ。

野良犬の問題、腐敗した政治、階層社会。これらはルーマニアで「いま」起きている現在進行形の話だ。娘への愛情ゆえに巻き起こる事件の根底には先行きの見えない社会への不安がもたらす余裕のなさや息苦しさが見え隠れしている。

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